【急行『ニセコ』にて…】 〜『今度は家出か?』 〜あやふみ17歳の夏 Episode・2〜

これはまだ私が高校生。17歳の頃の出来事。

青函連絡船を下船して函館の駅に降り立った私は、いったん駅の外へと出て街をぶらつきながら時間をつぶして頃合を見計らっていた。
でも、昼を過ぎて午後になって駅に戻ってきてもその混雑ぶりは相変わらずで、 青函連絡船から特急に乗り換える人の波は相変わらず続いていたりしていた。

そして私は意を決して、その流れに逆らうように私はホームで待っていた『急行ニセコ』に乗り込んだ。
この列車は既に特急列車全盛の中、取り残されたように急行のまま。特急はどんどん車両がグレードアップしていく中、昔ながらの『垂直背もたれ椅子』のディーゼルカーだった。
それまではもっと古い客車だったようだが・・・

どっちにしても時代に取り残された感の大きい列車だった。
特急は洞爺湖や室蘭、苫小牧とメジャーな個所を通るのに対して、こちらは長万部からニセコ・小樽と山側・日本海側を通って札幌まで行くのだった。
別にニセコも小樽もマイナーなところではないけれど、ここを通る急行やら特急やらはこの列車だけになってしまったのである。

ほとんどの人は先を急ぐ人ばかり、だから特急に乗っていく。
小樽に行くのだって特急で札幌に行って乗り換えたほうが早いし本数も多いから、やはりこの列車に乗り込んでいる人は少なかった。
なんとなく一抹の寂しさを抱えつつも列車は走り出した。

ディーゼルカーっていうのは、電車ほどの加速もスピードも出ない。
坂とか登る時にもなんかあえいでいるように思えるほどうるさいもんで…
函館を出て、大沼に至る途中の七飯というあたりはスキー場も一応あるくらいの山なので、勾配も実はきつかった。
それを悲鳴をあげるように列車は登っていっていく。

ほんとに『うるせえー』って言ったらこの上ない!(爆)
でも、するーっと無機質に坂を登っていく電車に比べれば、なんか人間臭い感じがしてディーゼルカーって乗り物も私は好きだった。

山を越えると今度はしばらく海を望みながらとなる・・・これは内浦湾というところだった。
ちょうどぐるっと廻ると室蘭に出る。なんか鏡のような海を見ながら私はぼーっとしていた。
列車は長万部に到着して、窓の外の風景はまた山の中へと戻っていった。

そんな景色がなんとなく見飽きて来たかなぁ??
なんて思い始めてきたとき、『垂直背もたれ椅子』のボックスシートの向かいに座っていた人のたたずまいが妙に気になり始めた。。

その人…年の頃は30歳過ぎ?いや、もっといっていたかも知れない。見た感じが非常に年齢不詳な人だった。
もっとも、高校生程度の人生経験なんかじゃ大人の人の年齢なんてうかがい知るよしもなかったりするわけで。
言ってみれば、『おにいさん』と『おじさん』のちょうど狭間といった風情か?

でも、むしろそんなことよりも座席にも網棚にも置けずに廊下に投げ出されるように置いてあった、彼の所有物と思われるギターの存在のほうが気になった…

((・・・いったい何をやってる人?もしかしてミュージシャン??・・・))

それを目の前の人の彼に質問できずにいる私は彼の顔とギターを交互に見やっているままで時間が過ぎていった。
でもやがて、その仕草に彼のほうも何となく気づいたようで彼のほうから声をかけてくれた。
ただ、その一言めが…

『君、中学生??』

ちゃうわっ!!高校生じゃっ!!(爆)
まあ、20歳を過ぎても中高生に見えるほ私はど童顔だったことは確かなのだけれど…

でも、彼のすっとんきょうな質問が私の心をほぐしてくれたらしい。
お陰で、それをきっかけにお互いちょろちょろと会話が進むようになったのだが(笑)

会話が進んでいくと、どうしても気になっていた『あの質問』をしたくなってきた私はそれを切りだしてみる。

『あのぉ…そのギターは??』
『ああ、商売道具!!』

やっぱこの人ミュージシャン??
そのことも聞いたら、

『うーん…どうなんだろう?これで飯食っていってることには変わりは無いんだけどね』

と、微妙な答えが。

その後、もっと突っ込んで聞いたところによると、彼はいわゆる『流しのギター弾き』ってやつらしかった。
いわゆる、飲み屋とかに行ってギターを弾いて一曲いくらっていう商売をしているらしくて、今回は札幌で営業(?!)をするつもりらしい。
自分もそういう存在は耳にしていたけれど、それって戦後の時代からせいぜい60年代あたりのお話じゃないの??って思っていたので、この時代にそんな人がいるなんて非常に不思議な感じがしたものだった。

そんなこと思っていたら彼の方から『じゃあ、一曲唄おうか』と言い始め、おもむろにギターを取り出して曲を弾き始めてくれた。。
ただ、いきなりの出来事だったんでビックリしたけれど…(笑)

弾いてくれた曲も、『飲み屋で…』って話を聞いてたので演歌か何かかと思ったら全然違うラテン系の曲だったのでさらにビックリ!!
実は、彼は本来はラテン系の方を目指していたそうだ。
そうやって聞いてみると結構上手いかも…ラテンってあんま聞いたこと無かったけどなんか心にぐっとくるような感じで。

ただ…彼が一曲歌い終えたとき、隣のボックスで飲んだくれていたオジサンから『うるせーよ!』って一喝が。

あぁ!ヤバイ!!
って私は思ったんだが、彼は意にも介せずに今度はさらっと演歌系の曲を弾き始めた。

そしたら、そのオジサン…急に機嫌が良くなっちゃって彼に他の曲をリクエストまでしてしまうのだった。
彼も心得たようで、そのリクエストに応えたりして列車内は急に宴会モードへ…(爆)

でも、本来ラテン目指していた人がここまで幅広く曲を弾けるもんなんですかいね??
そのことを彼に聞いてみたら、

『一応、これで飯食ってるんだし、お客のリクエストに応えてなんぼだから。今じゃそれなりに何でもできるようになったよ』

そうなんだ…それがある意味『プロ』ってやつなんですね。
そんな彼の姿にちょっとした感慨を覚えたりした。でもそんな自分の気持ちとは関係なく宴のほうはたけなわへと。
酒もすすんで上機嫌なオジサンは彼にチップというか…お金を渡し始める始末。

あ!彼ってそれで食ってるプロじゃん!!ってことに改めて気づいた。
おいらもお金渡さないと…
でも、いったいいくら出すもんなんだろう??って思案する。さっきのオジサンは千円札を何枚か奮発していたなぁ。

そして、私はもぞもぞと財布をまさぐる。そんなことし始めた私に彼は言った。

『キミはいいよ。さっきのは自分が歌いたくなって歌ったんだし』

え?いいんですか??
でも…やっぱ…ねぇ…うーん…(悩

だが、最終的には彼のご厚意に甘えることにした私だったのだが…(爆)

でもそんな彼の『ラテン系』な明るさと機転のお陰で、すっかり見知らぬもの同士が乗り合わせた急行『ニセコ』の車内は奇妙な一体感を持って小樽を過ぎ、終着の札幌駅に到着したのだった。
ホームに降り立ったときには、さっきのオジサンや他の乗客の人も彼と握手をして『がんばれよ!』って一声かけて去っていった。

そして、彼も私に

『いい旅しろよ!縁があったらまた曲聴いてくれな!』

そんな一言を残して彼も札幌の街へと消えていったのだった。

結局、その後彼に再会することは未だ実現してはいない。
でも、どこかの街でギターを抱えて歌を歌っているのだろう…きっと。


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